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Selfishly

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Pa26 「それぞれの想いの行方act5 」


Pa 26 「 それぞれの想いの行方 act5 」

       ~ スローライフ 1部完結話 ~


H18,6/11 22:30


テントを出て行ったレイモンドの話し声が聞こえた。
こんな早朝に 誰かいるのかと思っていると、
入れ替わりに入ってきたロイに、
エドワードの心臓がドキッと大きな鼓動をたてて打つ。

『聞かれてたかな・・・。』

レイモンドとの会話は、聞かれて困る事ではないが
正直、恥ずかしい気持ちと、照れくさい気分にはさせられる内容だったから。

そんな戸惑いを浮かべて、ロイを窺うが
入ってきたロイは、いつもと変らず 自然にエドワードに接してくるので
話を聞かれなかったのだと、エドワードをホッとさせた。


「ケガは大丈夫かい?」

エドワードの横に 膝を着いて覗き込んでくる。

「うん、今は ロイにもらった薬が効いてるらしくて
 痛みも あんまないしな。」

ごめんと思う気持ちを、笑顔に乗せて笑い返すと、
ロイは、仕方ないなというように苦笑を浮かべた。

「医者に見せたほうが良いんだが、
 時間が まだ早くてね。

 もし、我慢が出来ないようなら
 軍の医者を呼ぼうかと思ってるんだが・・・。」

そう言うロイに、エドワードは 慌てたように首を振る。

「いいよ! 別に 我慢できない程痛いわけじゃないし、
 これくらい、シップ貼ってれば すぐ直るしさ。」

そう言い訳をするエドワードに、ロイは あきれたような顔を向けてくる。

「君、エドワード・・・。
 何を言ってるんだね。

 これだけ腫れあがってて、シップ位で直そうと思ったら
 相当、時間がかかるに決まってるだろ?

 骨に異常がないかも、調べないといけないし。」

ロイに言われて、エドワードは きっちりと包帯を巻かれている足首をみる。
今は、確かに痛みは マシだが、代わりに熱が籠もっているのか
じくじくと疼いている感じがする。

「そうかな・・・。」

ロイにそう言われて、不安そうに返事をつぶやく。
もし、骨に異常があったりしたら
今後の生活に しばらく支障をきたす事になる。
そうなると、色々と困るだろうなぁーと思い悩んでいたのが
表情に出ていたのか、
ロイが クスッりと笑って、エドワードの頭を 優しく撫でてくる。

「もし 怪我が酷くても、
 心配しなくていいさ、
 君の世話は、今度は 私が きっちりと見てあげるから。」

そう 優しそうに向けられる微笑に、
エドワードの心臓が、また 大き目の鼓動を1つ鳴らす。
近頃、良く 不整脈を鳴らす胸に エドワードは妙に思うのが、
それを ごまかすように、嫌そうな顔をしてロイの言葉に返事を返す。

「それって、何か 嫌。」

過保護なロイの世話など、受けることになったら
どれだけ鬱陶しいかを考えると、作った嫌そうな表情が
本当になってしまう。

エドワードの嫌そうな表情で、返された言葉に
ロイの方が、驚いて聞いてくる。

「何が!? 何が嫌なのかね?
 
 もちろん、きっちりと手を抜かずに世話をさせてもらうよ!

 食事も ベットまで運ぶから、君は寝てていいし、
 移動したいときは、言ってくれれば 抱いて行くし、
 入浴ももちろん、きっちりと 隅から隅まで綺麗に洗うし。

 あっ、大学か? 学校に行きたいなら
 送迎も もちろん。
 なんなら、教室にも連れて行くが?」

真剣に焦ったように 自分が行おうと思っている内容を
上げていくロイに、エドワードは 米神の痛みが 酷くなるのを感じ、
手の平をロイに挙げて、ストップをかける。

「わかった、わかったから!
 
 別に、あんたの看護が嫌って言ってるんじゃないんだ。
  (いや、その看護の内容も 大げさすぎて、確かに嫌だけど)」

そうエドワードが言うと、やっと ロイも落ち着いて
エドワードの方を窺う。

「では、何が?」

落ち着いて、聞きなおしてやると
エドワードの俯いた、うなじから上が ほんのりと紅くなる。

「いや・・・、
 何か俺、そんな風に人にしてもらうのに慣れてないから、
 だから嫌って言うか、困るってか・・・。」

ぼそぼそと呟かれる、エドワードの本音。
ロイは不器用なこの子供に、思わず笑顔を浮かべて見つめてしまう。

エドワードは俯いていたから、そのロイの表情を見ていなかったのだが、
見ていれば、エドワードの困り具合も度数を上げる事は間違いない程の
優しい・・・、愛をしさを溢れさせた微笑だった。
彼が、これほどの笑顔を向ける人は 他にはいなだろうと
軍のこの上司を良く知る人々が居れば 言われただろう程の。 

自分の言葉に、恥ずかしさを感じているのだろうエドワードは
紅くなって俯いたままの姿勢でじっとしている。

ロイは、無性に甘やかしたい気持ちに駆られて
エドワードを抱き上げながら、わかったと返事を返す。

「なっ、何するんだいきなり!

 降ろせよ! 一人で歩けるって!。」

そう喚くエドワードを気にする風も無く、
ロイは、少しばかり背が伸びても まだまだ軽いエドワードを
しっかりと抱き上げながら、先程のエドワードの言葉に返事を返してやる。

「そうか わかった。
 慣れない事は、戸惑う事も多いだろう。

 この機会に、慣れる様に頑張らせてもらうよ。」
 
そう、楽しそうに告げながら、
ロイの返答に 更に驚き喚くエドワードに笑い声を返し続けた。






 『俺は お前の事が好きだ。
  友人としてではなく、恋人として。』

その言葉がテントで 先ほどから交わされている会話から
ロイの耳に飛び込んできた時に、
ロイは、呆然となる自分の心境を感じていた。

いつかは、 もしかしたら そう遠くない日に
誰かがエドワードに、その言葉を告げるのではないかと感じていた不安。
逆に、エドワードが 誰かに そう告げる日が来るのではないかと思う焦り。

ロイは、こうして実際にエドワードが その言葉を告げられているのを
目の当たりにして、自分が ずっと抱え続けてきた漠然とした不安の
原因を理解した。

毎日、同じ家で寝起きし、生活を共にしているにも関わらず
ロイは、いつも常に不安を感じていた。

それは、いつか来るだろう こんな日を思っていたからだろう。

エドワードが、自分以外の誰かを選び 離れていく日を。

ロイは クラリとした眩暈を感じ、しっかりと立っていた足元が
急に 覚束なくなるのを感じた。

エドワードの断る返答に、ホッと安堵の息を吐き出したのも束の間、

『・・・誰か、他に好きな奴でも?』

レイモンドが投げかけた質問に、
知らずロイの握り締めた手の平が、ぎゅっと固く力が入る。

(そうだ。 例え、彼の気持ちに答えれないとしても
 エドワードには逆に、すでに想う人が居てもおかしくない。)

傍に居てくれる事が当たり前になりすぎて、
エドワードが 居なくなる事等、考えもしなかった・・・、
いや、考えたくもなかった。

何故、考えなかったのだろう?
何故、こんなにも 一緒に居ることが自然に思えていたのだろう?
それは、ロイの心の中に答えがあったのに
ロイは、想いの入った箱を覗こうとしなかった。
怖かったから・・・、
 失うのが耐えれなくなるまでになりすぎていたから。

けど、自分達の関係は一過性のもので
いずれは、エドワードも出て行くのだ。
彼の成績の取り方を見ていれば、
通常の期間よりも早くて、短い期間で。

それに、気づいてさえいても
ロイは 今の幸せの浸り続けていた。

その自分の臆病さを否定されるような今になって、
ロイは やっと これからの先を考えるようになった。
今だけでなく、これからも先、ずっと幸せでいる為に出来る事はと。


そして、自分の横に立つ唯一の人間はと聞かれ、
エドワードが答えた名前は、ロイに さらにショックを与えた。

答えは、当然 わかりきっていた事なのに
それでも・・・と僅かな期待を抱いていたのだろうか?
臆病に 自分の想いから目を逸らしていた人間が
難とも 都合の良いことだ。
ロイは、自嘲気味に自分自身を嘲う。

では、エドワードにとって 自分とは一体なんなんだろう?

そんなロイの疑問を感じてくれたわけではないだろうが、
レイモンドが 同様の質問を エドワードに問う。

上がっていく心拍数を止めれずに、
ロイは 固唾を飲んで、エドワードの答えを聞き漏らさぬように
全神経を 聞こえてくる会話に集中する。

エドワードが語りだした話は、
ロイの心の中に温かな感動を生み出していく。

厳しくした事も、キツクあたった事もある。
けど、今のエドワードは そんなロイの気持ちを 
ちゃんと汲み取れるだけになっていた。
そして・・・、


『 出来れば、俺はあいつの正面に立って
 あいつの全てを見届けてやりたいと思っている。』

そうエドワードが言い切ったとき、
ロイは 愕然とする思いに陥った。

自分が、目を逸らしている間にも
彼は きちんと 自分達の関係を築いていこうとしてくれていたのだ。

エドワードの真摯な姿勢を知らされる度に、
ロイは 我が身の不甲斐なさを怒鳴りつけてやりたくなる。
14歳も下のエドワードが、きちんと自分達の関係を考えて進もうとしているのに
何故、年上の自分が 綿菓子のような儚い甘さに浸っていようとしたのか。
恥ずかしさの余り、儚くなりたいと思う代わりに
ロイは、自分の心の中に仕舞い込んでいた宝箱を
開放してやる決心をする。

今の関係が壊れることを恐れ、そっとし舞い込んできたが
今のエドワードなら、ロイが大切に仕舞い込んでいた宝物を
馬鹿にすることも、嫌悪する事も無く
きちんと受け止め、考えてくれるだろう。

けれど・・・、ここまで はっきりとエドワードの意志を知らずには
動けなかったとは・・・。
ロイは 我が身の不甲斐なさを嘆く、
今日 何回目になるかわからないため息を 深く、深く吐き出した。

『自分では、結構 しっかりした人間だと思っていたんだがな・・・。』

そう思いながら、またついているため息を吐き出していると
ちょうど、レイモンドが テントから出てきた。

レイモンドは、ロイの姿を見ても 特に驚く事もなかったのを見ると
外に居たのに気づいていたのかも知れない。

『それで、あの確認の言葉が出ていたわけか。』

と言う事は、私の気持ちも当然知られていたわけだ。

が、それは別段 ロイも驚く程の事でもない。
エドワードが言ったように、似た者同士なら、
思考や行動が似たとしても、変でもなんでもない。

まぁ、だからといって 同じ人間を好きにならなくても
いいのだとは思うが。

どうやら、ロイと似た人間は エドワードが好みのタイプに
なるのだろう。

レイモンドから、痛切な批判を受けても ロイが腹をたてる事もない。
自分も、同様に思うからだ。
全く 簡単な事を、何故 こうもややこしくしてしまうのだろう。
人とは、自分自身にさえ正直になりにくい生き物なのだろうか。
潔いレイモンドの方が、自分より 遥かに しっかりした人格者のようだ。
その点に関しては、この歳若いライバルを認めなくてはいけないだろう。

彼は、きっと あきらめはしないだろうから・・・。



「ロイ? ロイってば。」

エドワードの自分を呼ぶ声で、はっと気づくと
治療が終わったのか、エドワードが 松葉杖をついて
診察室から出てきていた。

「あっ、ああ、治療は終わったのかい?」

まだ、自分の思考深く入っていたのが抜けきらないのか
ぼんやりと そんな解りきった事を聞く。

「ああ、骨には異常がなかったようでさ。
 捻挫してるだけだって。」

嬉しそうに告げるエドワードに、ロイも ホッとしたように
笑顔を浮かべる。

「こらこら、診察は きちんと伝えてくれなくては。
 まがりなりにも、医者の卵なんだろう?」

苦笑しながら出てきた医者が、簡単に告げる言葉に否定を返す。

「保護者の方ですね。」

ロイに確認の言葉を向けてくる医者に、 
ロイは 礼をしながら挨拶を返す。

「エドワード君の足は、骨に異常はありませんでしたが
 捻った時の負担が大きかったようで、
 捻挫と言っても かなり重度です。

 本当は、ギブスをして固定するほうが
 足首に負担がかからずに良いのですが、
 本人が、それだけは 絶対に嫌だと言うもので。」

困ったように告げてくる医者の言葉に、
ロイが 驚いたように聞き返す。

「そんなに酷いんですか!?

 構いません、ギブズをして固定してやって下さい。
 彼の世話は、きちんとしますから。」

ロイが、勢い込んで 医者に詰めかかると
驚いた医者とエドワード二人が、反応を返す。

「ちょっ、何 勝手な事言ってんだよ!
 安静にしてれば、ギブスはしなくて良いって言われたんだから
 ギブスなんて、必要ない!」

そんな 喚いているエドワードを無視して、
ロイは 医者に視線をはずさず、さぁとばかりに促す。

「い・・・いや・・・、
 患者が 断るものを・・・、無理には・・・。

 まぁ、確かに 捻挫でギブスは かわいそうですからな。
 まぁ、出来るだけ 足首に負担をかけずに居てくれるなら・・・。」

しどろもどろ答える医者に、ロイは 不満そうに鼻を鳴らす。

「しかし、それで彼の足が 使えなくなりでもしたら
 一大事でしょう!?
 
 使えなくなる事はなくても、
 変な癖が付いて困る事になるかも知れない。
 
 用心に、用心をする事が 治療の心得ではないのですか?」

そうロイに強く迫られると、医者の方も 冷や汗を流して
対応に困っている。

そのやりとりを見ていたエドワードが、堪り兼ねて
ロイの背中を、拳で叩く。

「・・・っ~、痛いじゃないか
 エドワード・・・。」

急な攻撃に、構えられなかったロイは
エドワードの拳の威力を、身に染みて味わった為
涙目で 恨めしそうにエドワードを見る。

「いい加減にしろ。
 先生が困ってるだろ!

 すみません、なるべく安静にして負担を掛けないように
 しますんで。」

エドワードが、きちんと告げて礼をすると
医者は、ここぞとばかりに 「お大事に!」と
一声かけて、扉の中に戻っていった。

閉められた扉を、ロイは不満そうに一睨みすると
仕方ないとばかりに、エドワードに帰るように声をかける。

さぁとばかりに差し出された腕を避けるように
エドワードが、慣れない杖をつきながら方向を変えようとする。
そんなエドワードの行動も予想済みだったので、
構わずに抱き上げる。

「ちょっと~!
 止めろよー。

 杖持ってるのに、抱きかかえられる奴が どこにいるんだよぉ~。」

情けなさそうに悲鳴を上げるエドワードにも
ロイは、全く取り合わず、

「ここに。」
としらっと返して、そのまま どんどん進んでいく。

薬を貰う待合室でも、抱きかかえて来られたエドワード達は
注目の的だったが、ロイは 周囲には全く関心を払わず、
ひたすら エドワードの事を気にかけては
構い続けていた。

「そら、エドワード。
 その足は、ここに置きなさい。」

座るのに足を降ろそうとすると、
さっと足を持ち上げては、自分の足の上に乗せてやる。

ロイの足の分、確かに 足は持ち上がり地面には着かないのだが
やられている方にしてみれば、とんでもない体勢だ。

「ちょっ、ちょっと まじ止めて。」

嫌がるエドワードにも、ロイは構うこと無しに
足を降ろさせないように掴んで離さない。

「いいから、先生もおっしゃってただろう?
 絶対に 足を着けないようにしなさいって。」

「言ってない、言ってない!
 安静にしろって言ってただけだろ!?」

エドワードの必死の否定も、ロイにとっては どこ吹く風のようだ。

痛くないかと、乗せた足を撫でながら 心配そうに聞いてくる相手に
エドワードは、恥ずかしくても涙が出るんだと
知りたくも無い事を知ってしまった。

薬を貰い、治療の注意事項を真剣に聞いているロイの様子を
睨みつけながら、余りにも過保護ぶりが酷い今日のロイに戸惑いを
感じずにいられなかった。

『なんなんだよ~。
 確かに 前から甘いところがある奴だったけど
 今日は、もう過保護を通り越して、変な領域だぜ。
 全く・・・。』

ロイが 薬を受け取りに行っている間も
ホッとするどころか、周囲の興味津々な視線に一人耐えねばならない。
本当は、二人とも それぞれ代わる代わるに浴びているのだが、
一方が 全く気にしないのだから、
エドワードだけが、辛い環境に陥っているという事になる。

薬を手に、戻ってきたロイが 当然そうにエドワードを抱きかかえてくるのも、
もう 抵抗するだけ無駄と思い知ったエドワードは
一刻も早く、ここから抜け出すために
黙ってされるがままに抱きかかえられて行った。


二人が去った待合室では、去った後に 一斉に騒然としたムードになる。

「なに、なんだったの?」
はしゃぐように嬉しそうに隣の見知らぬ人間に話しかける者達が続出し、
重い雰囲気が立ち込める待合室が、華やかに色めき立つ。

「いいわね~、私もあんなに大事にされてみたいわー。」
ホォーと羨ましそうにため息をつく中年の女性方。

「男の子みたいだったけど、あの子 女の子なのかしら?」

「う~ん、どっちでも許す。
 あれだけお似合いなら、男の子でも大丈夫よね。」

キャッキャと繰り広げられる彼らの話は、
退屈な病院通いの生活に、大きな話題となって
語り継がれて行く。

「でも、なんだか あの黒髪の男性。
 見た事があるきがするんだけど・・・。」

そう呟かれた一人の言葉に、皆が う~んと悩むが
凛々しく厳しいので有名な 国軍の中将と
まるで、歳若い彼女に 下手惚れの男性の図そのままの男を
重ねれる者がいなかったのは、軍の評判上
良かったと言うべきだろう。



病院から 車を拾う為にロイが歩いている間、
エドワードが 持っていた疑問を問いかける。

「なぁ、どうしたんだよ、あんた。
 何か、今日は ちょっと異常だぜ?」

エドワードの言い方に、ロイは 眉をしかめて

「異常は酷いな。
 怪我人を労わるのは、当然だろう?」

「い~や、異常だ!

 今日のあんたは、螺子の1本や2本は緩むどころか
 どっかに飛んでってる!」

確かにと思い、エドワードが 余りにも的を得た事を言うので
ロイは 可笑しそうに笑う。

「なんだ? 迷惑かな?」

笑いながら、そう聞くと

エドワードは きっぱりと返事を返してくる。

「迷惑!」

その言葉にも、ロイは落ち込むこともなく
嬉しそうに、返事を返す。

「そうか、それは申し訳ないね。
 じゃぁ、我慢してくれたまえ。」

そのロイの返答に、ア然としたエドワードの表情に
ロイは、思わずキスしたくなる程 可愛く見えた。
確かに、ロイの螺子は どこかに飛んで行ったようだ。
今まで、我慢していた事が、 いったん吹っ切ると
どこまでも際限なく湧き上がって来る。
今のロイにとってエドワードは、
構いたくて、可愛がりたくて仕方ない存在なのだ。


エドワードは、帰ると言われたから
てっきりと駅に向かい、セントラルに戻るのだとばかり思っていた。
が、車が着いた先は このリゾートで有名なホテルだった。

驚くエドワードを気にする風でもなく、
ロイは エドワードを抱きかかえたままチェックインをすると
最上階の部屋まで上がっていく。

このフロアーには、部屋数が少なく その分、1部屋ごとの部屋がかなり広い。
リゾートの長期宿泊も考えられて作られた部屋は、
快適な居住空間を 過ごす人間に与えられるように造られている。

エドワードは部屋に入って、リビングのソファーに降ろされると
思わずと言ったように、まわりを呆然と見回した。
湖に面したホテルだけあって、広いベランダに出れる扉は
前面ガラスで、ふんだんに陽光を取り入れられるようになっており
部屋を明るくしていた。
手入れのされた家具も、居心地良く
自宅にいる癒された雰囲気を醸し出している。

部屋から見れる扉は、どうやら続き部屋になっているようで
多分、寝室に続くのだろう。
キッチンも併設されているのか、ロイがお茶を淹れて持ってくる。

「ロイ・・・、ここって。」

呆然と呟かれる言葉に、ロイは至極当然のように答えを返す。

「ああ、君の療養期間を過ごそうと思ってね。

 さあ、お茶は 折角 ベランダがあるのだから
 あちらで飲む事にしよう。」

ロイはエドワードに答えながらも、
ベランダにお茶の準備をしに行く。

その間も、エドワードは 呆然とつぶやいている。

「療養って・・・、別に家に戻っても出来るじゃんか・・・。

 まさか、あんたも 一緒に過ごすわけ?」

この忙しい男が、そう司令部を空けれるわけもない。
が、そうは思うが ロイの様子を見ていると
どうも、ここに腰を落ち着けそうな気配が満ちている。

「もちろんじゃないか。
 怪我をしている君を一人にできるわけないだろう?」

そう言いながらも、ベランダに移動するために
エドワードを抱き上げて行く。

日除けも、きちんとされているベランダは
直射日光に当らずに、湖が送り込んでくる涼風で気持ちがいい。

「でも・・・、仕事・・・。
 そうだよ、ホークアイ中佐!
 
 中佐が許すはずない!」

冷たく冷やされたガラスのポットは、
美味しそうな水滴を浮かべては、中の飲み物を
さらに美味しそうに見せる効果がある。

ロイは、ポットから アイスティーをグラスに移してやりながら
先ほどから、落ち着きを見せないエドワードに
心配をかけさせないように、話してやる。

「大丈夫。
 中佐には 事情を話してある。
 君の怪我の事を聞いて、快く療養を許してくれたよ。」

自然、エドワードと視線を逸らしながら そう告げると
エドワードが、疑わしそうに言葉尻をとってくる。

「快く?」

そんなはずはないだろうと思っているのが
ありありとわかる口調で問い返されると、
ロイも飲んでいたアイスティーを喉につまらせながら、
正直に白状する。

「まぁ、少々渋られたが・・・、
 本当に 最後には許してくれたんだよ。
 ・・・条件付で。」

渋い表情で、そう告げるロイを見ていて
エドワードは、ホークアイ中佐の苦労を思い
深くため息をつく。

「な、なんだね!
 そのため息は。」

エドワードの反応に、ロイが焦ったように言いかけるのを
エドワードが、力なく首を横に振る。

「いや・・・、中佐も大変だな・・・って。」

エドワードが、中佐に気にかけすぎるとロイは不満そうに
言い返してくる。

「そんな事は無い。
 私だって、ここまできて仕事をする約束をさせられたんだから
 十分、かわいそうだろう?」

「あっ、やっぱり仕事をほって来てんだ。

 それ、自業自得。」

エドワードの容赦ない返しに、ロイはグウの音も出ない。

そんなロイを見て、エドワードも 少々、申し訳ない気持ちになる。
エドワードの怪我が 原因で迷惑をかけた事は間違いない。
が、まさかロイが ここまでするとは思っていなかったのだから、
それに便乗する人間が悪い。
エドワードは、そう割り切る事にして
目の前の 美味しそうなアイスティーに
やっと、手を伸ばした。

ロイは、日ごろ さしたる我侭も言わない限り
1度言い出したら、絶対に引かない。
多分、我慢が爆発すると そう言う行動に出るのだろうが
やや、はた迷惑なストレス解消方ではある。

ここ最近、忙しさが酷く
家で居る時間も 減っていた。
エドワードと落ち着いて話をする事も無ければ
一緒に食事をする事も難しくなっていたから
息抜きをしたくなる気持ちもわからないでもない。

自分との時間を大切にしようとしてくれている
ロイを知っているだけあって、ロイのストレスが
どの原因で溜まっていたのかと思えば、
今回の強硬手段にも納得できる。

どうして、そこまで大切にしてくれるのかは
いつも、不思議で仕方が無かった。
エドワードは、そんな思いを浮かべながらロイを見る。
そして・・・、そんなロイの行動を 戸惑いながらも
受け止めてしまう自分の気持ちも、
正直、自分には手に過ぎるところがある。

でも、今は 折角の久しぶりの ゆっくりした時間だ。
ロイにとっても、良い時間を過ごせるよう
エドワードも、多少のロイの行動にも目を瞑る事にする。

特に話をするでもなく、
景観の良い眺めを楽しみ、心地よい涼風を感じる。
そんな些細な事でも、二人で居ると 楽しく思えるこの時は
まるで、二人の関係が ごくごく自然に、溶け込めると言われているようだ。
そして、二人の気持ちも、このゆっくりとした時間と同様に
緩やかに満たされていく。


その夜、エドワードは熱にうなされていた。
ロイは、病院で薬を受け取り 注意を聞いたときから解っていたようだが、
足首の捻挫は、やはり あまり軽いものではないから、
薬が切れた夜半には、発熱が高くなる事。
痛み止めは 1日1回しか飲めないので
解熱剤で我慢させるしかない事。

熱が上がり、朦朧とする意識が浮上する度に
じくじくと痛む足首をなんとかしようとエドワードが身動きするのを
ロイは、辛抱強く 宥めては、動かさないように抑えていた。
薬が利いている間は、熱も 幾分落ち着いたようだが
しばらくすると、珠のような汗を浮かび上がらせるエドワードに
冷やしたタオルを何度も交換してやり、
汗を拭いてやりしながら、見守ってやる。

エドワードが、意識がないまま口走る言葉にも
ロイは、安心させるように手を握り、
髪を撫で、頬に触れては 「大丈夫、ここにいるから。」と
話しかけてやる。
夜が薄く明ける頃には、エドワードの容態も落ちつき
寝息も安定してくる。
ロイは、ホッと緊張していた気持ちを緩めると
急激に襲ってくる眠気に誘われるように
エドワードの手を握りながら、ベットに凭れる様に眠りに着く。
さすが、2日目の徹夜は身体に堪えた様だ。



深く眠る夢の狭間で、エドワードは ずっと探している。
何を探しているのかは、もう 自分でもわからなかった。
幼い時に多くを無くし続けた彼にとって、
欲しいものは何も無い。
欲しいと思ったものを失う痛さは、
欲しいものを持とうとするよりは、持たないほうが楽だと言う事を
彼の中に、恐怖感と共に植えつけていたからだ。

でも、エドワードは 夢の空間が創る暗闇の中、
ただただ、探し続けている。
何がかわからず、何故とも浮かばない。
でも、探さずにはおれない。
それは、もしかしたら 自分自身・・・、とうに失った
自分の中にあったものなのかも知れないし、
持ち得なかったものを探しているのかも知れない。

ずっと昔も こうして暗闇に攫われた事がある。
その時は、絶望の闇に捕らわれ
探す気力も無く、ただただ 膝を抱えてうずくまるだけだった。

そんな時、急激な焔が生み出す熱が自分を引き上げた。
見開いても見えなかった瞳に、引き上げられて最初に見たのは
暗闇と同じ色をした、けれど 決して同質でないと言い切れる
力を持った黒い瞳だった。
その時から、エドワードは暗闇に一条の光を見出す事が出来るようになった。
どんな暗闇でも、必ず救いはある。
その焔を探し出せさえすれば・・・。

昔のうずくまるだけの無力な自分は もういない。
エドワードは、果てしなく広がる闇にも怖気づく事無く
探して、探して、
 手を伸ばし 掴もうと足掻き続ける。

果てしない時間、探し、探し続け・・・、
そして、手の平に その熱を感じ

『やっと、見つけた・・・。』
と安堵の吐息をつき覚醒する。



周囲は すでに陽も登り、明るく照らす陽光が
濃く遮られるように作られたカーテン越しにも
透かして入っていた。

エドワードは、自分が掴んだ 熱を見てみる。
その手には、しっかりと握られた手があった。
持ち主は、少し疲れたような表情で静かな吐息を紡いでいる。

エドワードは、我知らず溢れてくるものが自分の涙だと
わかるまで、しばらく時間を要した。
その涙は、自分の中に植えられていた恐怖感が
溶け出したものなのか、探し続けたものを手にした喜びなのか
そのどちらもなのか。

ただただ、涙で霞む目で必死に、
自分が探し続けていた者を見続ける。

この気持ちは一体なんなんだろう・・・。

母さんに向けていた思慕とも、
アルフォンスに向けている信頼でも、
ウィンリーや婆っちゃんに向けている家族愛でも、
大好きな 軍のメンバーや、
仲の良い友人達に向けるものとも全く違う。

そして、それはレイモンドが願った想いとは
違うのだろうか?

エドワードには、この想いが どこからこんなに溢れてくるのか、
何故、それが こんなに辛くて、愛とおしいのか解らなかった。
今まで、自分の中には こんな想いが存在した事がなかったから。

だから、ただただ 溢れる想いが零す涙を止めることもせず、
自分の想いに悩み、わからないまま 
静かに、伝う涙を不思議に感じながら
じっと 眠る相手を見つめ続けていた。

そうすると、触れるはずのない涙が落ちたとでも言うように
ロイが、ふと目蓋を上げる。

ロイは、泣いているエドワードを見て
一瞬、驚いたような表情になったが、
優しく微笑みながら
静かに、問いかけてくる。

「どうした?
 足が痛むのか?」

身体を起こして、エドワードに近づくと
優しく髪を梳きながら、聞いてくる。

エドワードは 小さく首を振りながら、
ロイの与えてくれる優しさに、さらに涙を零れさせる。

ロイは、声も出さずに泣き続けるエドワードに
少し困ったような、照れたような笑みを浮かべ
流れ落ちる雫を手の平で掬い上げてやる。

その手の平の温かさにエドワードが陶然と目蓋を閉じると、
今度は 温かい湿った感触が頬をぬぐう。
小さく驚いて目を見開くと、
驚くほど近くにいる男が、悪戯っ子のようににやりと笑いながら
エドワードの涙を舐めて来る。

ロイの行動に驚いたせいか、エドワードの涙はピタリと止んだ。
ロイは、な残り惜しそうにエドワードの涙の跡を舐めると、
泣き止んだエドワードに、偉いぞと褒美を与えるように
目蓋に口付けを落としてくる。

口付けは、触れるだけの優しい温もりを伝えてくる。
二つの目蓋に交互に何度も落ちてきては、
次に額にも、頬にも、鼻の頭にも
何度も、温かさを伝えたいというように降り注いでくる。

そして、唇の端に触れるような口付けを落とすと
ピタリと止まる。

与えられていた温もりが止まった事に、
少しの不満を持ちながら、エドワードは閉じていた目蓋を上げると
驚くほど近い距離で覗き込んでくる相手の顔が見える。

それに驚いて、身を捩ろうとしたが
エドワードの顔の両側に肘を着き、
抱え込むようにしているロイからは
離れられそうも無い。
あきらめて、覗き込んでくる相手の瞳を見ると、
そこには、磨き上げられた黒曜石のような瞳があり、
その中には エドワードが探し続けていた焔が見える。

エドワードは、探し続けていた その焔から目が離せないでいた。
じっと見続けるエドワードに、ロイは 静かに唇を開き言葉を紡ぐ。

「エドワード、愛している。
 ずっと、そう伝えたかった。

 伝えられなかった臆病な私を、笑わないでいてくれるかい?」

気弱そうな笑みを浮かべ、エドワードに まるで許しを乞うように
ロイが 囁いてくる。

エドワードは、ロイが 伝えてきたことを
とうに知っていた自分がいた事に驚いていた。
だから、ロイの言葉に驚くと言うよりは
それを素直に受け止めれる自分に驚いているのだ。

ロイの愛情は、どんなに鈍感なエドワードにもきちんと伝わっていた。
何故と思った事も、ロイの告白で すんなりと納得できる。
エドワードは、以外にも戸惑っていない自分を不思議に思いながらも
ロイの懺悔に、小さく頷いてやる。

エドワードが頷くのを見て、ロイは ひどく嬉しそうに微笑み
中断していた口付けを先ほど以上に、熱心に降り注ぐ。
ひとしきり、唇以外の顔と髪に口付けを降り注ぐと、
気が済んだのか、今度は 難しそうな表情をして
殊更 ゆっくりと顔を近づけてくる。
エドワードの嫌がる反応はないかと窺うように、
唇の端に触れだるけのキスを両側に落とす。

エドワードが、身じろぐ事もせずに受けているのに勇気付けられ、
今度は ゆっくりと、恐る恐る唇に口付けを落とす。

驚くような、戸惑うような色を瞳に浮かべてはいるが
エドワードが 嫌がる素振りが無いことに気を良くして、
ゆっくりと 少しづつ長く、角度を変えては唇に口付けを落としていく。

長くなる唇の口付けに、息が苦しくなって
息を取り込もうと開けた唇に、すかさずロイが割り込んでくる。
さらに息苦しくなって、ロイの背中を叩くが
男は、仕方無さそうに笑い
少し離れてくれたかと思うと、
すぐにエドワードの中に入り込んでくる。

臆病だったのは、最初だけで どんどんと、ずうずうしく
強引に進入してくる男の態度には、
エドワードも、腹が立つやら、困るやらだが、
治まった熱がぶり返してるのではないかと思う熱さで
相手にされるがまま受け止めるので必死になる。

ロイが飽くこともなく続ける口付けのせいで、
呼吸がまともにできないエドワードは 
段々と、いい加減にしろ!と思う気持ちが苦しさと共に
ふつふつと湧いてきた。
エドワードが、嫌がるように顔をそむけると
ロイは、仕方無さそうに唇はあきらめて、
二人の唾液が伝う喉元に唇を移し変える。
段々と、口付ける位置を下げていくロイに
エドワードが、少々 焦り始め
今更ながら、ロイを止める言葉を言う事に気づく。

「ちょ、ちょっと待てよ。

 おい、どこにキスしてるんだよ!」

首筋から移動し、胸元に辿り着いたロイは
そこにある可愛い飾りが気にいったのか
熱心に口づけては舐めている。

「ひゃっ!
 くすぐったい!
 やめろって。」

くすぐったさに身を捩るエドワードを、ロイは五月蝿そうに押さえつける。
押さえつけた大人しくなった身体に満足したように、
再度、続きをしようと顔を降ろすが、
エドワードに顔を両手で突っ張られて断念する。

「エドワード・・・。」
恨みがましそうなロイの声にも、エドワードは乱れた衣服を直しながら
さっさと起き上がる。

「あんた、手 早すぎ!
 今告白して、いきなり何するんだよ!」

真っ赤な顔で怒鳴りつけてくるエドワードに、
そう言えばそうかと納得しながら、ロイも身体を起こして
プリプリと怒るエドワードの前に座りなおす。

「で、エドワード。
 君の返事は?」

まるで、ご褒美をもらうワン子のように
期待に目を輝かせて、エドワードを見つめてくる。
尻尾があったら、さぞや盛大に振っていただろう。

エドワードは、痛む米神を感じながら
この大人で子供な、待つことを知らない男には
躾が必要だと感じる。

「保留!」
そう声高く言いきると、さっさと杖を引き寄せベットから立ち上がる。

「エドワード・・・。」

なんとも情けない声音で、エドワードの名前を呼んでくる。
エドワードは、この強引なわがままな男には
『同情は禁物』とばかりにフンと鼻息を鳴らす事で
返事の保留を撤回する意志が無い事を告げる。

途端に、がっくりと肩を下げて座り込んでいるロイが、
余りに しょんぼりと、悄然としている様子がおかしくて
プッと噴出し、笑い出してしまう。

そんなエドワードに、ロイはムッとしたように抗議をする。

「エドワード、その態度はあんまりにも酷いんじゃないか?

 一世一代の私の告白を、そんなに笑う事もないじゃないか!」

本当に 憤慨しているのだろう。
不機嫌を全開で、エドワードに食って掛る。

そんなロイの態度にエドワードは、少し困ったような表情をして
ロイを眺める。

「あんたは・・・そのぉ、色々と経験があるから
 いいけどさ・・・。

 俺は、今まで そんな経験があるわけでもないし、
 そんなに早く進めないんだよ。

 だから、少しだけ ペース、落としてくんない?」

真っ赤な顔をして、
恥ずかしそうに語りだされた言葉に、
ロイは 驚いたように目を見開く。

そして、本当に 心から嬉しそうに満開の笑顔をエドワードに向け、
立ち上がったエドワードの手を そっと引き、
身体ごと受け止めると、
優しくエドワードの耳元に呟いた。

「そうだな・・・、少し急がせすぎたようだ。
 
 年甲斐もなく余裕がなかったものでね。」

そう照れたように告げられた言葉に、驚いたようにエドワードがロイを見上げる。

「そんなに驚く事もないだろう?
 経験があっても、本当に好きになった人間には
 誰でも余裕なんてあるはずがないさ。

 ましてや、自分から乞い願った人間は
 君が初めてなんだから。」

そう正直に告げるロイが、自分と同様に赤い顔をして
重なる体から、同様の速さで動く鼓動を感じると、
エドワードは、緊張していた思いを解く。

そして、このいつもは余裕を見せ付ける男が
こうして、自分と同じように 動揺している事が
本当に嬉しくて、可笑しくて。

エドワードは、知らずロイに触れるだけの口付けを返す。

「エドワード・・・。」
驚くように瞳を丸くするロイに、エドワードは自然と優しい気持ちになる。

「だから、今はこれで我慢してくれよな。」

そう言ってやると、ロイは 抱きしめていた腕に更に力を入れて
喜びを伝える。

「ああ、君の気持ちを聞かせてもらえるまで
 ちゃんと、待っている。」

躾のされた黒犬は、待ての言葉も きちんと覚えたようだ。
そう考えながら、微笑んだエドワードのも束の間、
ロイは、しっかりとご褒美を要求する。

「でも、キス位は させてもらっても構わないだろ?」

エドワードが、返事を返す前に口付けてくる男にあきれながら、

『そうだよな・・・。
 こいつって、こういう男だったよな・・・。』

少しの譲歩は、どうしても必要と割り切って
熱心に唇を開くように強請る口付けに、
あきらめて力を抜いてやる。




こうして、少しづつ育てていた二人の関係は、
ロイの頑張りと、エドワードのあきらめで進む事になる。
周囲が じれったくなる程のゆっくりとした変化は
きっと、二人に必要だった時間だったのだろう。

二人が一緒に蒔いた種は、ようやく 固い地面から小さな芽を顔見世した。
これから、育てていくのは 実がなる果実の木か
大輪の華咲く花になるのか。

どちらにしても、まだまだ時間がかかることは間違いないだろう。

スローライフを歩む二人の道程は、まだまだ スタートラインを出たばかり。




[ あとがき ]

趣味で書き続けているだけの長編シリーズ。
二人の関係が 少し進んだ所で、1部完結です。
この二人のこれからは、まだまだ 難問が山積みしてきそうです。
台風にも、日照りにもめげない花を咲かし、
実をつけて言ってもらえればと願います。


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